サラリーマンしながら音楽を鳴らす
少し救われた話がある。
僕は福祉用具を取り扱いする営業をかれこれ8年ほどやっている。
介護といえば3Kと言われ
『きつい、汚い、危険』
だそうだ。
今3Kを検索し、汚いという言葉にキレそうになったが、世間ではそう言われてるらしい。
ターミナルって言葉にピンと来る方はいらっしゃるだろうか?
検索するとこんな感じで内容が出る。
介護や医療ではターミナルとはもう長くない方の事を指す。
ターミナルケアと言ったりする。
ある日ケアマネージャーの方から新規でご相談を頂き、明日急だけどベッドを納品してほしいと言うのだ。
男性の方でターミナルの方なんだけど、、と。
ターミナルの方は1日1日で状態が変わる。
早急に対応しないといけないし、失敗は許されない案件になる。
僕は介護ベッドを手配しご自宅に伺った。
とても優しそうなご夫婦がいらっしゃった。
ご主人は少ししんどそうに椅子に座りながらお茶を飲んでいた。
介護ベッドを置けるか設置場所を確認すると、エピフォンのアコースティックギターが置いてあったのだ。
お子さんのだろうか?と思ったが恐る恐る
『ギターやられるんですね』
と伺ってみたのだ。
そうすると奥様が
『そう。主人が好きで。
ハワイアンミュージックとか好きなのよ。
良かったら話振ってあげて。
とても喜ぶわ。』
と言うのだ。
ご主人に同じように
『ギターされるんですか?』
と聞いてみた。
すると
『昔実はやっていてね。
クラブとか回ってやっていたんだよ。
僕はバッキー白片とアロハ・ハワイアンズが凄く好きで。』
そこからしんどそうなご主人の顔が急に明るくなって、僕にハワイアンミュージックをお勧めしてくれた。
君は何をやっているの?と聞いてくれ、僕は今ANYOというバンドをやっています、90年代のブリストルサウンドにハマってと伝えた。
そうするとニコッとハイカラな音楽だねと言ってくれた。
ベッドの組み立ても終わり商品の説明を奥様にしているとご主人がフッと外に出ていなくなってしまっていた。
奥様もどこ行ったのかな?と心配されていた。
帰り際にYouTubeの使い方を説明させてもらい、これでいつでもバッキー白片見れるわーととても喜んでいた。
ありがとう、ありがとうと言われ、そのご自宅を後にした。
夕方事務所で作業していると登録されていない携帯番号から着信があった。
電話に出るとお昼にベッドを納品した奥様からだった。
『先程はありがとうございました。
携帯で音楽が聴けるようになって凄い嬉しいわ。本当にありがとう。
主人は音楽が本当に好きなの。
これで寝ながら聴けるようになるわ。
あと、あれからいなくなったでしょ?
探しても探しても何処にもいないのよ。
途方に暮れてたら、急に帰ってきて
ずっと車の中でバッキー白片のCDを彼に渡すんだって探してたのよ。
本当に嬉しかったみたいで。
彼はまた近々来るわよって主人には伝えといたわ。
だから、また良かったら顔出しにきてね。
主人があんな風に喜んでたのを久しぶりに見たわ。
本当にありがとう。
あなたが来てくれて本当に良かった。』
お礼の電話をくれたのだ。
僕は少し泣きそうになった。
奥さんは一人で色々葛藤しながらご主人を看病し、苦悩し続けていたのが見て取れた。
その奥さんからの感謝の言葉は凄く重く、今の僕には響いたのだ。
僕はよく営業は物を売らず自分を売りなさいと下の子達には伝えている。
信頼できるあなたから買いたいと思われないとダメだと思っているからだ。
現場も少しづつ離れていた僕には初心に帰れる言葉を頂けた。
僕がギターを、バンドをやり続けていなかったらご主人を笑顔には出来なかったかもしれない。
今日ほど音楽をやっていて良かったと思った日はない。
そんな僕にとって救われた話。